ヴァイオリン貸与プロジェクト

fineviolin
株式会社 atsumari の理念と背景
– 音楽文化支援への思い–

この歴史的な貸与を実現した株式会社 atsumari(アツマリ)は、2018 年創業の新進企業です。“鳥のように美しく音色を奏で、自由に成長し羽ばたいてゆく”――そんな詩的なビジョンを掲げ、より豊かな音楽社会のための「機会」と「場」を提供することを使命としています。同社は高級弦楽器の販売・調達を手がける「fine violins byatsumari」を運営し、楽器を通じて人と人、人と音楽をつなぐ独自のビジネスモデルを展開しています。

atsumari 設立の背景には、楽器職人と演奏家それぞれの視点から音楽業界を見つめ直した創業者たちの思いがあります。代表の木附篤人と共同設立者のカポラリ真亮(マリオ)は、ともにヴァイオリンを愛する幼馴染であり 、カポラリは楽器製作を学び、若い楽器製作者が直面する現状や演奏家が銘器に触れる機会の少なさに着目しました。高価な楽器を資産として所有するだけでなく共有し活用することで音楽文化を活性化させるという新しい試みでした。

弊社は、演奏家への銘器貸与という形で音楽文化支援を目的にしています。楽器投資の観点から見ても、優れた楽器を優れた演奏家に託すことは価値を高める最良の方法であり、実際「演奏するヴァイオリンはこの会社から貸与いただいている」と奏者が語ることで企業の社会貢献としての認知度も高まっていくといいます。しかし弊社の想いは宣伝効果だけではありません。ヴァイオリンやクラシック音楽の魅力、そして支援者として関わることの社会的意義を広く伝え、日本に新たな音楽支援の文化を根付かせることを目指しています。

そのために弊社は、富裕層の愛好家に実際の銘器を貸与し、間近でアーティストの演奏を体験できる機会を創出するなど、コミュニティ作りにも力を注いでいます 。「ヴァイオリンの世界っていいな、応援したいな」と思えるきっかけを提供し、将来的にはストラディヴァリウス級の至高の銘器を支える支援者の開拓へとつなげたい考えです。こうした理念のもと、今回の「Grand Amati」の貸与プロジェクトも実現されました。

atsumari にとって本件は、音楽文化支援への新たな一歩であり、弊社のビジョンを体現する象徴的なプロジェクトとなることを目指しています。

1682年製ニコロ・アマティ「Grand Amati」を鈴木舞氏に貸与

ヴァイオリニスト鈴木舞(すずき まい)氏が、歴史に輝く銘器との運命的な出会いを果たしました。彼女に貸与されたのは 17 世紀(1682 年)にニコロ・アマティによって製作されたヴァイオリン「Grand Amati」。クラシック音楽の黄金期から現代へと時空を超えて受け継がれたこの楽器が、今まさにアーティストの手に託され、その音色が新たな物語を紡ごうとしています。

深みある歴史を宿す音と、現代を生きるヴィルトゥオーソの感性が融合する瞬間に、音楽ファンならずとも胸を震わせずにはいられません。

【貸与の意義 – 銘器と新星の邂逅】

今回の貸与は、演奏家と歴史的楽器を結ぶ意義深い出来事です。ニコロ・アマティの“Grand Amati”はストラディバリウスやグァルネリと並ぶ三大銘器の系譜に属し、300年以上もの時を経て今なお輝きを放つ伝説のヴァイオリンです。その響きは「ニコロ・アマティのグラン・パターンのヴァイオリンは、製作者の作品中でも音響的に最高傑作であり、ストラディバリの 1700 年前後のモデルの基盤ともなっった」と評され、「グラン・パターン中でも最上の一本であり、世界最高のヴァイオリンの一つ」と絶賛されました。

この由緒ある楽器が演奏家に託されたことは、単なる楽器貸与の枠を超え、歴史的遺産と未来の芸術を橋渡しする象徴的な出来事です。

鈴木舞氏はこの銘器との出会いにより、「Grand Amati」が秘める深淵な響きを引き出し、その声を現代に甦らせるに違いありません。何世紀もの間大切に守られてきた楽器が、鈴木舞氏に貸与されることにより、音楽史に新たな一頁を刻む瞬間です。

【鈴木舞氏のプロフィールと国際的評価】

鈴木舞氏は、世界が注目する新世代のヴァイオリニストです。神奈川県出身の彼女は幼少より才能を発揮し、東京藝術大学附属高校から同大学へ進学。

ローザンヌ、ザルツブルク、ミュンヘンで研鑽を積み、ドイツ国家演奏家資格を取得しました。

在学中から国内外のステージで活躍を始め、ソリストとしてヨーロッパ、アジア、南米を巡るツアーに参加。サントリーホール(東京)、リマのサンタ・ウルスラ・アウディトリアム、ミュンヘンのヘラクレスザールなど世界各地の名だたるホールで演奏を重ねてきました。

その実力は数々のコンクール受賞歴にも表れています。2005 年大阪国際音楽コンクールでグランプリを受賞後、2006 年日本音楽コンクール第 2 位(高校 2 年生での快挙)に輝きました。さらに 2007 年チャイコフスキー国際コンクールでは日本人最年少セミファイナリストとなり、2011 年アンリ・マルトー国際コンクール(ドイツ)でもファイナリストに進出。そして 2013 年ヴァーツラフ・フムル国際ヴァイオリンコンクール(クロアチア)で堂々の優勝を果たし、オーケストラ賞も同時受賞しました。加えてスイスのオルフェウス室内楽コンクール優勝、ロシアのスピヴァコフ国際第 2 位(2016 年)など、国内外の名だたる舞台で栄冠を手にしています。2012 年には皇居・桃華楽堂での御前演奏会にも出演し、同年シャネルの「ピグマリオン・デイズ」アーティストに選出されるなど、その音楽性は各方面から高く評価されています。

国際的な共演歴も輝かしく、読売日本交響楽団、東京交響楽団、日本フィルハーモニー、名古屋フィルといった国内主要オーケストラに留まらず、ローザンヌ室内管弦楽団(スイス)、クオピオ交響楽団(フィンランド)、ザグレブ・フィルハーモニー管弦楽団(クロアチア)など海外オーケストラとも共演を重ねてきました。指揮者陣も小林研一郎氏やヨルマ・パヌラ氏など国内外の巨匠が名を連ね、各地での演奏会は高い賞賛を受けています。2017 年にはキングレコードよりデビューアルバム「Mai favorite」をリリースし、2025 年 3 月にはセカンド CD「翼」を発表するなど、録音面でも精力的に活動。まさに「将来を嘱望される新世代のヴァイオリニスト」として飛躍を続ける存在です。

今回貸与された「Grand Amati」は単なる銘器以上の意味を持ちます。自身の研ぎ澄まされた感性と技巧によって歴史的楽器の真価を引き出し、その響きを世界へ届けることで、彼女の音楽家としての物語に新たな章が加わることでしょう。豊かな表現力を備えた彼女が、このアマティを手にすることによってどんな音色を響かせるか、期待が高まります。

【銘器「Grand Amati」の歴史的価値と音響的特性】

今回貸与されたニコロ・アマティ作 1682 年製のヴァイオリン「Grand Amati」は、ヴァイオリン製作史において極めて貴重な存在です。ニコロ・アマティ(1596–1684)はイタリア・クレモナの名工一族アマティ家の頂点に立つ人物で、後にストラディバリウスら名だたる後継者を育てた巨匠として知られます。彼の手によるヴァイオリンは数百挺にのぼりますが、その中でも“グラン・パターン”と呼ばれるモデルで作られたものはわずか数十挺程度しか現存しません。グラン・パターンの楽器は通常モデルより僅かに大型で幅広く設計されており、その寸法ゆえに豊かで力強い響きを持つことが特徴です。事実、ニコロ晩年の頃に製作されたグラン・パターンのヴァイオリンは「音響面でアマティ最高の作品であり、その後のストラディヴァリの最も成功したモデルの礎ともなった」と評価されています。

1682 年製作のこの「Grand Amati」は、ニコロ・アマティ最晩年の作品にあたり、製作から 340 年以上を経た現在まで奇跡的な保存状態を保っています。ニスはほぼ完全に当時のまま残され、板のエッジもオリジナルの形状を留めるほどで、そのコンディションは「334 年という年月を経た楽器とは思えぬほど完璧」に近いと評されています。

その美しいフォルムは、優美に伸びたコーナー部や繊細な f 字孔の彫りに表れ、鑑賞面でも卓越した芸術品といえます。

「Grand Amati」の音色は、一音鳴らしただけで聴く者の心を捉えると言われます。広がり豊かな低音から甘美で澄んだ高音までバランス良く響き、精密さと優美さを兼ね備えた音が特徴です。そのトーンはまさに往時のクレモナの空気を現代に伝えるタイムカプセルのようであり、聴衆は音を通じて歴史と対話する体験を得ます。

1906年製「Augusto Pollastri」をドゥアラ・アディ氏に貸与

国際的に注目される若手ヴァイオリニストであるドゥアラ・アデ ィ氏(13 歳)に対し、20 世紀イタリアの名工アウグスト・ポラストリ(1877–1927)による貴 重なヴァイオリンを貸与しました。現代に生きる新星と歴史的名器が出会うことで生ま れる音楽の物語は、単なる楽器の貸与を超えた感動的な章の幕開けです。若き演奏 家と伝説的な楽器を橋渡しする本プロジェクトは、世代と文化を越えて音楽の魂を紡 ぎ出す意義深い試みとなります。

ドゥアラ・アディ氏:飛躍する若きヴァイオリニストの横顔

ドゥアラ・アディ氏は、卓越した才能で国内外から注目を集める若干 13 歳の若手ヴ ァイオリニストです。東京のインターナショナルスクールに在籍するアディ氏の実力は 数々のコンクールで実証されています。2023 年の第 77 回全日本学生音楽コンクー ル全国大会ヴァイオリン部門・小学校の部において見事第 1 位と横浜市民賞に輝 き、同大会初出場ながらその名を全国に知らしめました。また、それ以前にも大阪国 際音楽コンクール小学生部門で第一位を獲得するなど、幼少期より輝かしい受賞歴 を重ねています。こうした実績は、アディ氏の卓越した技術と音楽性を物語っていま す。

その演奏は年齢を超えた深い音楽性で聴衆を魅了します。実際、コンクール会場で 彼の演奏に接した指導者からは「この子はもはや音楽を勉強する子供ではなく、小さ な音楽家だ」と称賛されるほどで、幼い頃から培った豊かな表現力と舞台上での堂々 たる存在感が評価されています。難曲に果敢に挑む探究心と集中力もアディ氏の大 きな特長です。パガニーニ「ラ・カンパネラ」など超絶技巧を要する楽曲でも緻密な練 習を重ね、舞台上では一音一音に魂を込める演奏を披露してきました。その結果、聴 衆のみならず審査員をも魅了し、「演奏が始まると会場の空気が一変する」と評され るほどの存在感を放っています。

さらに国際的な舞台でも活躍し始めており、2024 年にはタイで開催されたチャリティ ー音楽イベント「ChildAid」に日本代表として招聘され、各国の若きアーティストたちと 共演を果たしました。異文化の音楽家たちとの共演経験は、アディ氏にとって音楽的 視野を一層広げる機会となり、その豊かな感性に磨きをかけています。こうした国内 外での活動実績に裏打ちされたドゥアラ・アディ氏は、次世代を担う演奏家として大い に期待され、その一挙手一投足が注目を集めています。

貸与された名器:アウグスト・ポラストリが遺した至高の ヴァイオリン

今回アディ氏に貸与されたヴァイオリンは、イタリア・ボローニャ派の巨匠アウグスト・ ポラストリが製作した歴史的名器です。ポラストリは 19 世紀末から 20 世紀初頭にか けて活躍し、20 世紀を代表する名製作家の一人として知られています。少年時代よ り名工ラファエレ・フィオリーニの工房で才能を認められ、その若さで工房を任される

ほどの腕前でした。1906 年前後には彼独自のモデルを確立し、師フィオリーニの伝 統を受け継ぎつつも独創的なボローニャ様式の楽器を生み出しています。その職人 技は完璧に近い仕上がりを見せ、ニスは柔らかな質感で赤みがかった褐色の地に 黄金色の下地が透ける美しいものが使われています。外観から放たれる気品と存在 感はひときわ際立ち、見る者を魅了してやみません。

ポラストリの楽器は音響面でも極めて優れた特長を備えています。豊かなパワーと 色彩感を併せ持つその音色は、「オールド・イタリアン」らしい深みと温かみを湛え、演 奏者の表現に敏感に応えてくれる楽器として評価が高いです。実際、ポラストリが製 作したヴァイオリンは 1927 年のジュネーブ製作コンクールで優勝を果たしており、そ のクオリティの高さが当時から国際的に認められていました。

しかし何よりこの楽器が特別なのは、その希少性です。ポラストリは修復や調整の名 手でもあったため、新作楽器の製作数はごく僅かに留まりました。その結果、生涯で 製作したヴァイオリンは 64 挺ほどといわれています。名匠が魂を込めて作り上げた 数少ない作品の一つである本器は、年月を経た現在でも極上の保存状態と響きを保 ち、歴史的価値と芸術的価値を併せ持つ真の名器といえます。

このポラストリのヴァイオリンには、幾多の物語と伝統が宿っています。スペインの名 ヴァイオリニスト、パブロ・デ・サラサーテもポラストリの腕を高く評価し、その工房に足 繁く通ったと伝えられます。サラサーテは自身の愛器ストラディヴァリウスの調整を任 せるほど信頼を寄せ、ポラストリを「リュート製作の魔法使い」とまで称賛しました。こ うした逸話は、本器が単なる骨董品ではなく、歴史を彩った巨匠と演奏家の友情の 証でもあることを物語っています。

また、ポラストリの工房で共に働いた弟ガエタノ・ポラストリの存在も特筆に値します。 ガエタノもまた優れた製作家であり、1910 年代から兄を助け、兄亡き後の 1927 年以 降は工房を引き継いでその技術と伝統を守りました。兄弟はラベルや焼印にも工夫 を凝らしており、1910 年頃から使われ始めた雄鶏の刻印(ロースターブランド)はエン ドピン付近や胴内部に押され、フィオリーニ門下であることを示す印刷ラベルやボロー

ニャ市章入りの直筆ラベルとともに、両名の作品に用いられました。ガエタノの手によ る楽器には兄と同じ刻印やラベルが引き続き使われたため、後年それらがコピー品 に転用されることもあったほどです。このように名器ポラストリの系譜は、兄弟二人の 情熱と技巧によって紡がれてきた特別なものなのです。

名器と歩む未来:新たな音色の物語へ

歴史的名器ポラストリを手にしたドゥアラ・アディ氏は、これから新たな音楽の旅路へ と踏み出します。若き才能と名器との邂逅は、単に楽器を交換したというだけでなく、 音楽史と未来を結ぶ架け橋となる出来事です。アディ氏はこの楽器を携えてコンサー トやイベントに出演し、その響きを世界に届けていくことでしょう。実際、2025年5月3日〜5日に開催される「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2025」LFJ STRINGS EXPOにて、のステージでも本器を用いた演奏が予定されており、歴史と現代が融 合した音色が聴衆を魅了することが期待されています(使用楽器として A・ポラストリ が紹介されています)。今後、録音やメディアを通じてもこの名器の魅力を発信し、多 くの人々がその音に触れる機会が増えてゆくに違いありません。

ポラストリとの出会いは、アディ氏にとって自身の芸術性をさらに深化させる絶好の機 会です。名器が秘める表現の可能性に触発され、新たなレパートリーへの挑戦や創 造的な解釈が生まれることでしょう。たとえば力強くも繊細なポラストリの音色は、これ まで以上に多彩なダイナミクスとニュアンスを引き出すことを可能にし、アディ氏の演 奏に新境地をもたらすと期待されます。少年時代から磨いてきたテクニックと感性に、 この名器が持つ 300 年近い歴史の重みと響きが融合することで、唯一無二の音楽表 現が生み出されるに違いありません。

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